不意に灯るもの


 嫌なことは早めに済ましたほうが得策だ――…と、いう思考から寮監から貰ってきたダンボールに今日買ってきたばかりのものを乱暴気味に突っ込んでゆく。
 ダンボールの中には万が一を考え、雨に降られてもいいようにと大き目のビニール袋――ゴミ袋とも言うが――を敷き詰めておく。
 配慮、というよりももう一度買いに行かされるのを回避するためだが…。

「相変わらず堂上の妹さんはいいチョイスするよねぇ〜」
「どこがだっ!」

 その一部始終を最初から見ていた小牧が口を挟む。
 小牧の手にはいつものビールと携帯が。

「やーだってさー。堂上の性格を熟知した上でのチョイスじゃないか。全部。
 こういうところはさすがだな〜って」
「DVDの録画を頼んだだけでこれだぞ! これっ!
 まったく今回はたまたま笠は………っ」

 ぴくり、と小牧の気配が揺れたのを堂上は感じた。
 しまった、失言した! と堂上が思ってももう遅い。

「班長〜。笠原さんがどうしたのー?」
「なんでもないっ!」
「ふーん。なら明日笠原さんから聞き出してもいいんだ?」
「なっ――…! そんなことはすんな!」
「じゃぁ教えてくれるよね〜?」

 ネタのためなら躊躇なく親友でさえもどん底に突き落とすというのかこいつは!
 そう思わずにはいられない堂上は小牧の視線から逃れようと横を向いた。

「はんちょ〜。お、し、え、て、く、れ、る、よ、ね?」

 わざわざ一音ずつを区切り、堂上に微笑みかける。
 俺から逃げられると思ってるの? という意味の鋭い視線に誰か助けてくれ、と堂上は力なくうなだれた。



 それから2日後――…。

「これ、本当に貰っちゃっていいんですか?」
「あぁ…」

 深い皺が眉間に刻みこまれたまま、堂上は乱暴に人形の入った紙袋を郁へと手渡す。
 堂上は小牧の行動に気が付かなかった己を恨んだ。
 やけくそ気味にダンボールへぬいぐるみたちを詰め込んでいて気が付かなかったのだ。
 小牧がこっそりと静佳へメールを送っていたことに。

「わぁ! ほほえみウサギだっ!」

 紙袋から人形を取り出した郁は嬉しそうにソレを抱きしめる。
 どう見ても微笑んでない。そう堂上は心の中だけで突っ込んだ。

「あいつ曰く、買い物に付き合ってくれたお礼――だそうだ。
 貰ってやってくれ。俺が持っていても仕方ないからな」

 深いため息をつきながら、あの日のことを思い出してしまった。
 小牧が自室に帰ってからほどなくして妹から電話があったのだ。
 一緒に買い物してくれた子にぬいぐるみを1つあげるように、と。
 もちろんその場で口論となったが、頼んでおいたDVDを人質にとられては従うしかない。

「あっあの!」
「なんだ?」
「妹さんにお礼を伝えて頂けませんか?」
「それは必要ない。正当な報酬としてお前に渡すように言われてるんだからな」
「そうなんですか?」
「あぁ。だからお前が気にすることはないぞ」

 いつものように頭をぽんぽんと叩けば嬉しそうにはにかむ郁が。
 不意に見せつけられたその笑顔に、堂上は固まった。
 意識の全てが郁にそそがれたまま――…。

「教官、本当にありがとうございます。これ、大切にしますね」
「あ、あぁ……」

 お辞儀をして去ってゆく郁を見ながら、堂上は無意識に心臓の辺りの洋服を握り締めた。
 封じ込めた思いが溢れてこないように、強く強く何度も――…。


     〜 Fin 〜

【 初出:SNS-2008/10/10 】