優しい悪戯


 寝ていたはずの意識が戻る瞬間は、水の中で浮かび上がる感覚とどこか似ている気がする――…。
 そんなことを思いながら郁は目が覚め、ふと壁時計に目をやればもうすぐ5時になるところだった。

「んっ。あれからまた寝ちゃったんだ…」

 あくびを一つかみ殺し、郁は手で目をこすろうとする。
 しかし動くことが出来ず、郁はまただ――…と心の中だけで思った。

「ふふっ。篤さん可愛いっ」

 こんなことを本人に言えば確実に怒られるだろう。
 けれど公休日明けの朝方はいつもこうなのだ。
 まるで離れるのが嫌だと、我侭を言う幼子のように堂上は郁のことをがっしりと抱きしめて寝ている。
 初めてこの状態で目が覚めたときは驚いたものだ。
 しかし次に目が覚める頃にはいつものように戻っていて、それが少しだけ寂しいとさえ思う。

「今度、一つだけ言うこと聞いてくれるときにでもお願いしようかな?」

 郁よりも体温が少し高い堂上の体にぴったりとくっついていると酷く安心する。
 なによりも心地いい眠りに身を任せられるのだ。

「これからもずっとこうして寝られるといいな」

 郁は嬉しそうにふにゃりと笑いながら体の向きを変え始める。
 堂上を起さぬように気をつけながら、けれどもっと堂上の傍に行けるように、と。

 そして郁は触れるだけの初心者向きのキスで堂上の唇を一瞬だけ盗む。
 毎回気が付かれないかドキドキするが、今のところ大丈夫なようだ。

「おやすみなさい。篤さん」

 先にうたた寝してしまい、言えなかった言葉を紡ぎながら目を閉じる。
 堂上が目を覚ましたとき、どんな反応をするのか楽しみにしながら――…。


     〜 Fin 〜

【 初出:SNS-2009/04/03 // 甘イ熱*郁編 】