その、艶やかな唇は


 郁との夜の散歩から自室へと戻ればすでに飲み始めていた小牧が居た。
 テーブルの上には飲み終えたであろうビールの空き缶が二本置かれている。

「…いつ来たんだ?」
「ん〜たぶん堂上が出かけてすぐ位じゃない?」

 じっと堂上の顔を見ていた小牧はたちの悪い笑みを浮かべ、すぐさま携帯を弄り始めた。
 多少の居心地の悪さを感じながらも、いつものことだと諦め着ていた上着をハンガーへと掛ける。
 冷蔵庫からビールを取り出して定位置に座れば企み顔の小牧が。

「なにか言いたいことでもあるのか?」
「班長〜。ほどほどにしてあげないと笠原さんが可哀想だよ?」
「なっ!」

 多少の後ろめたさがあった堂上は簡単に動揺した。
 そしてそれを見逃すほど小牧は甘くない。

「あ、後で手塚も来ることになってるから」
「そうなのか?」
「うん。でさ、それまでにソコの腫れ引くといいね」
「あ? どこか腫れてるか?」
「うん。唇がね、すごい真っ赤」
「ぶはっ!」

 飲みかけのビールを盛大に拭いた堂上はそのまま咳き込んだ。
 小牧は汚いなーと言いながらテーブルの上を布巾で拭う。

「――…そんなに酷いか?」
「ちょっと艶かしい感じ。冷やしておいたほうがいいよ?」
「分かった。そうする……」

 素直に唇をビールで冷やし始めた堂上から唸り声が聞こえ始めた。
 どうやらメールを送るかどうかで悩んでいるらしい。

「堂上、この時期寒いから笠原さんリップつけてるでしょ?」
「あぁそのはずだが…」
「なら大丈夫なんじゃない?」

 それに向こうにもアドバイザーが居るしね。こっそりと小牧はほくそ笑んだ。


     〜 Fin 〜