リハビリから戻ってきた堂上が見たのは椅子にもたれたまますやすやを寝入る郁だった。
はらりと滑り落ちそうになっている本が風によってめくれそうになっていた。
「まったく…」
気がつかれないようにそっと本を引き抜いてベット脇に置いておく。
そして音を立てないようにベットに座り郁の正面を陣取る。
さわさわとまだ残っていた夏の匂いを感じながら、郁の髪の毛をすく。
一度、二度、三度。飽きることなく何度も何度も郁の髪のさわり心地を満喫するように。
「どうしてこんなに無防備なんだお前は…」
上官としての時期からすでに気にはかけてた。
戦闘職種であるはずなのにどこか危機管理に欠けて、そして無防備で危うい郁のことを。
つい気になってしまって過剰にかまってしまった時期さえあった。
まだ自分の気持ちにすら気が付いていのに――…だ。
ただ、じっと郁を見入る。
うっすらと施された化粧は堂上の好みを配慮してのことだろう。
正直言えば薄化粧よりも化粧をしていないときのほうが好きだったりする。
直接その肌に触れることが出来るし、なによりも薄皮一枚を隔てずに熱を確かめられるから。
――まぁ化粧は女のたしなみだって言うからな。
まだ付き合いだして浅いが、それでも少しずつ女として綺麗になってゆく郁を見るたびに堂上は歯がゆい思いをする。
小牧から聞いた最近の郁への評価がそれに拍車をかけるからだ。
もっとも郁自分はどう見ても自分しか見えていないので少しは溜飲は下がるが。
「――…郁」
触っても起きないことに少しだけ不安になるが、それでも安心しているならいいかと気持ちを切り替えて名を呼んだ。
聞こえなくてもいいと思いながら小さく、一度だけ。
――ふんわり。
そんな言葉が似合いそうな笑顔が郁の顔に表れて堂上は動揺した。
この天然で可愛い生き物はなんなんだ? そう思わずには居られないくらいに。
少し――…自分の顔が赤みを帯び始めたのはこの際気が付かなかったことにする。
そう決めて堂上は立ち上がり、郁の髪に口付ける。
――もっと我侭を言っていいんだぞ、という気持ちを込めながら。
すぐに顔を赤らめて恥ずかしそうに俯く郁を思い出し、思わず微笑む。
その仕草だけでどれだけ自分がやれれているかなんぞこの鈍感娘には分からないだろう。
同時に溢れそうになるくらいの感情を抑えるのに必死になる自分のことすらも。
「寝顔を見れたのは嬉しいがな…」
揺れるカーテンをぼんやりと見ながら、堂上は美味しそうな郁の唇をこっそりと味見をしてみた。
起きたら罰としてキスさせるか、などと不埒なことを思いながら――…。
〜 Fin 〜
【 夏の匂い。の堂上編 】