「今日はゆっくりしませんか?」
ここ最近多忙を極めていた旦那を気遣って、新妻である郁が堂上に提案したのは少し遅めの朝食をとりながらのとき。
郁の優しさが嬉しくて笑っていたら「その顔は反則です――」と照れながらの郁が居た。
顔に熱が集まり始めたのを自覚しながら、心の中だけで呟いた。 お前のほうが反則だ――…と。
年を重ねても初々しさを忘れない郁を見るたびに堂上は負けた、と思う。勝負事ではないのに。
――まぁ、惚れたほうが負けって言うしな。
などと口に出したら最後、どちらがかより惚れているかで口論になるだろうけれどこればかりは譲れない。
隠す必要すらないのだ。もう――…気持ちも行動も。それがどれだけ嬉しいのか、まだ郁にはいまいち伝わりきっていないのが少しだけ歯がゆい。
まだまだ時間はかかるだろうが、ゆっくりと分からせればいい。時間はあるのだから。
二人で分担させてた家事を終え、買出しに出かけた。
ついでとばかりに昼食は外で食べた。その帰り際、郁の希望で行きつけのケーキ屋でデザートを購入することにした。
郁が選んだのは新メニューの二層になったブドウのムース。堂上が選んだのは郁が迷っていた紅茶とオレンジの二層のムースだ。
どちらも美味しそうで、目を輝かせながら郁は堂上に一口下さいね。と可愛いおねだりを口にした。
分かってる。という返事の代わりに頭をぽんぽんと叩けば郁には満面の笑みが。
――可愛すぎて困る。
どうやらじっと見すぎたせいか、顔を赤らめながら郁は堂上に「篤さん?」と聞いてきた。
なんでもないと答えたあと、ほっとした表情をした郁を見てたまにはいいかと引き寄せた郁の唇を盗む。
思わず叫びそうになった郁の口をもう一度ふさげば声にならなかった叫びが漏れた。
うーうーと唸る郁に「周りに人が居ないのは確認済みだ。たまにはいいだろう?」と言えば「ずるいです…」と消え入りそうなくらいの返事が返ってきた。
「お前が可愛すぎるからな」と更に言えば涙目になった郁がそこに居た。
さすがに罪悪感を感じて謝罪すれば「今日の篤さんなんだか意地悪だ…」と郁に言われた。
「今日のお前はいつも以上に可愛すぎるからだ。それに――…溢れたんだから仕方ないだろう?」
「なにが溢れたの?」
きょとんとした表情のままの郁に「お前への愛情が、だ」と耳元で囁けばそのまま肩に顔をうずめられた。
この際、篤さんのバカという暴言は甘んじて受けることにしよう。
――お前が思っている以上に俺はお前に惚れてるんだってことちゃんと知っとけよ。
そんなことを考えながら、郁の綺麗な丸みを描く頭を撫でてこういうのも悪くないとほくそ笑んだ。
〜 Fin 〜