話のネタにでもしたいのか、それとも部隊内の既婚者の先輩が気を利かせてくれたのか。
急遽、降って湧いたかのように隊長から堂上夫婦へ、明日から三日間の公休を言い渡された。
そして副隊長からは白い封筒が。
「これは?」
あごで開けろと指示された堂上は封筒を開けて絶句した。
中に入っていたのは都内でも有名な高級ホテルの宿泊券だったからだ。
「ま、俺らからのお祝いってことだからよ、ちゃんと使えよ?」
伸ばした足を机に乗せたまま、両手を頭の後ろで組んでいた隊長はこともなげに言い放つ。
その瞬間、明らかに堂上から怒りのオーラが立ち上ったのを後ろに佇んでいた郁は感じた。
同時に「きっと篤さんの眉間の皺、すごいことになってるんだろうな」とも。
堂上、それは俺から説明する――…。
穏やかな声で堂上の怒りを打ち消したのは長身の副隊長である緒形だ。
「なんだかんだと言って去年はまとまった休みを消化出来ないくらい忙しかっただろう?
それに今年は堂上三正が始めて教官として部下を持つことになれば更に休みは取りにくくなる」
「えぇ。ですがそれは他のメンバーも同じ立場です」
「まぁ最後まで聞け」
無言で堂上がうなずいたのを見て、緒形副隊長の視線が郁へと注がれた。
その表情が困った時の父親に重なって郁は少しだけ驚いた。
「どうせこれから忙しくなるんだ。その前に十分英気を養って貰おうって話になってね。
第一弾として君たち二人に三日間の公休を与えることになった。
もちろん他のメンバーも順次消化して貰うから安心しろ」
「…分かりました。けれどこちらのホテルの宿泊券は?」
「あぁ。それはな」
「明後日、結婚記念日だったよな。女ってもんは記念日とか好きだろ?」
にやりと柄の悪い顔をしながら玄田隊長が会話をぶった切る。
どうやらホテルの宿泊券を示唆したようだ。
「最初は隊長と進藤と俺から使い勝手のいいものでも送るか、って話をしてたんだ。
それがいつの間にか隊全体に話が浸透してね…」
「お前ら二人とも人望あるかならー。あっといまにそれが買えるくらい集まったんだよ」
がはは! と豪快に隊長は笑い、副隊長の緒形は苦笑いした。
どうやら副隊長は堂上の性格を読んで内内に済ませたかったらしい。
正直、裏があるのでは? という考えは消えない。
けれど、心遣い自体は嬉しいので素直に頂くことにした。
「分かりました。これは頂きます」
やられた感が否めない堂上はすっと肩の力を抜き、郁と結婚してからよく見せるようになった優しい笑顔を浮かべた。
なんだかんだと祝福してくれるのは嬉しいのだ。遊ばれるのは嫌だが。
「おう! ホテル内の施設も使えるから気兼ねなく羽を伸ばしてこいよ。
なんだったら子供も作って来てもいいぞ!」
「なっ!!!!!!」
玄田隊長からの余計な一言で二人は一気に顔を赤らめた。
郁に居たっては俯いたまま、微動だに出来ずに居る。
「隊長…。それは余計なお世話でしょう」
「そうかぁ?」
怒り沸騰直前の堂上にすまんな、と言葉を投げかけたのはやはり緒形だった。
どことなく顔が赤くなっているのは緒形自身も居たたまれないせいだろう。
いえ。と答えたあと、堂上は固まったままの郁の手首を掴みその場を後にした。
〜 Fin 〜