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花冷えが収まり、世界に優しくも淡い色が増え始める。
同じ名を持つ木々が咲きはじめ、花びらが風に舞う。
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――…ぽふっ。
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ひらひらと目の前に落ちてきた花びらを郁が両手で受け止めた。
そっと手のひらを開けば5弁の花びらが綺麗に付いたままのものだった。
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「ふふふっ。また取れた」
「なんだまだやってるのか?」
「あ、篤さん! そっちはもう終わったの?」
「あぁ、晩御飯の用意は終えたぞ」
「見てみて。綺麗でしょ?」
「へぇ。綺麗だな」
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目をきらきらさせて、天色の透明感のあるグラスを指差す。
そこには官舎の傍に植えられている桜の花びらと、自宅で育てていたカモミールの花が水の上に浮かべられていた。
良く見ればグラスの下には色とりどりの線が入ったビー玉がいくつか入っていた。
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「ん? ビー玉なんて持ってたか?」
「この間実家に帰省したときに見つけたの。つい懐かしくて持って来ちゃった」
「へぇ。久しぶりに見たな…」
「静佳さんが持ってたの?」
「いや祖母がな」
「そうなんだ。でもなんか嬉しいかも」
「なんでだ?」
「だって、同じものを見てそれぞれに思い出がちゃんとあるんだもん。
そういうのって幸せな気持ちが2倍になったみたいで嬉しいの」
「……確かにな。で、まだそれは続けるのか?」
「ん〜もういいかな? 篤さん来たし」
「いいのか?」
「うん! 暇つぶしも兼ねてたから」
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上機嫌な郁の頭に、ふわりと桜の花びらが乗っかった。
それをそっと指先で摘み、グラスの中へ。
花が水面に触れた瞬間から小さな波紋が幾重にも広がった。
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「そうか。なら晩御飯の時間を少し早めてここで食べるか?」
「えっいいの?」
「自宅に居ながら花見が出来るなんておつだろ?」
「わぁ! だから篤さん大好きっ!」
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思いっきり抱きつかれ、それでもたたらを踏むことなく郁の体を支えた堂上は優しい笑みをこぼす。
桜の花を愛でながら、妻も一緒に愛でるか――…とこっそり思いながら。
〜 Fin 〜