手塚の兄である慧から結婚祝いとして二人掛けにして少し大きめのソファーが贈られた。
始めの頃こそ使うのを躊躇っていた光だったが、いつのまにか気にしなくなった。
それは使い勝手の良さと手触りの心地よさのせいだけじゃないのを麻子は知っている。
以前よりも兄と和解出来たことが嬉しいのだ。本人は自覚していないだろうけれど。
すでに定位置とかした玄関側のソファーに座り、光は読みかけだったハードカバーの本に没頭していた。
それを見た麻子はにんまりと笑いながら足音を立てずに近づく。
特殊部隊に籍を置く光は訓練の賜物だろうか、人の気配に聡い。
けれど自宅で過ごしているときはそうでもない、という事実を麻子は知っていた。
それだけ自分の存在が彼の中で深く根付いているということが嬉しいと思わずには居られない。
男らしく大股で座っている脚の間にちょこんと座り込み、しっかりと筋肉の付いた太ももを枕にして麻子は目を閉じた。
光は光でそんな麻子の行動に気が付いたのか、さらりと髪を梳く。
ときおり髪を梳く手が頭を撫でるのは、尊敬してやまない堂上一正の癖を知らず知らずに真似ているせいだろう。
良くも悪くも意外と周りから影響を受けやすい自分の旦那を思い、くすりと笑う。
「麻子?」
「なんでもない」
「そうか?」
「そうよ?」
自分自身よりも少し高めの体温がこんなにも心地良いものだと、麻子は今まで知らずに居た。
だからこそたいした会話もせず、ただ撫でられているというこの時間がなによりも好きだった。
言葉ではまだ上手く素直になれなくても、こうして甘えることが出来るからだ。
光は光でそんな麻子の好きにさせてくれるらしい。
酷く穏やかで、そしてゆったりとした時間――…。
揺れるカーテンの先にある風景を見て麻子は思う。
秋めいた世界に少しずつ冬の陰りが見えてきたな、と。
今年もあと2ヶ月ほどしかないのだ。それが少しだけ物悲しい。
――ねぇ、もう少しだけ。
言葉に出さずとも、なぜか光には伝わる気がした。
心地よい温もりに触れたまま、麻子はまどろみ始め――…やがて寝息をたてる。
だからこそ麻子は気が付かない。
ずいぶん前から光が本を読まず、穏やかで優しい視線を麻子にだけ送っていたことに。
そして完全に寝てしまったのを確認したあと寝室のベットへと横たえ、枕に流れた髪の一房を救い上げ口付けたことに。
「――…怒るなよ?」
完全に気持ちよさそうにまどろんでいる奥さんに気がつかれないように、光もそのままベットの中へと潜り込んだ。
大切な宝物を守るかのように優しく包み込みながら、そしてぽそりと呟く。
気づかれなくてもいいなどと思いながら一言、愛してる――…と。
まるでその言葉に返事をするかのように麻子はぎゅっと光に抱きついた。
〜 Fin 〜