「郁、ちょっといいか?」
「なぁに?」
「手、出せ」
※
きょとんとしたまま首をかしげた郁の手に二つの容器が手渡された。
一つは丸い容器。もう一つはリップタイプのもの。
どちらも白をベースに、幾重にも重なる翡翠色の螺旋と蝶が描かれた綺麗なものだ。
郁はそれを見て「わぁ〜」といいながらはしゃいだ。
※
「篤さんこれなんですか?」
「ん? とりあえずどっちでもいいから開けてみてくれ」
※
少し悩んだあと郁は丸い容器を開けた。
ふんわりと甘くて優しい香りがあたりに広がる。
※
「これって――…蜂蜜ですか? あ、カミツレの香りもする」
「あぁ。とりあえず試作として作ってみた。匂いとかどうだ?」
「凄く良い匂いです! って試作ってことはこれ、篤さんが作ったんですか?」
「この間、郁が柴崎と一緒に出かけた日にちょっとな」
「うわー篤さん凄いすご〜い!」
「ほら春撒きのカミツレ、たくさん採れただろう?」
「うん。すごい大量にとれたよねー。柴崎にあげたら喜んでたし」
「たくさん採れたカミツレをなにかに使えないかと思ってネットで調べてみたんだ。
そしたら手作りのリップクリームのサイトを見つけてな、意外と簡単に作れそうだったし。
なにより面白そうだったからな、作ってみた」
「リップが作れるなんて知らなかった! 凄いねー」
「あとでそのページ見せてやる。ちょっとカミツレの分量が不安だったんだが…。
どうやらちょうど良かったらしいな。蜂蜜は保湿性もすぐれてるしな」
「今つけてもいい?」
「そのつもりで渡した」
※
今日は二人そろっての公休日。そしていつも朝寝坊をすると決めている日だ。
だからこそのんびりとベットでくつろいでいた郁に手渡したのだ。
どうせならすぐに使ってほしいから。
※
「――…ん。わぁすごいぷるんってする〜! 凄い凄い!」
「気に入ったか?」
「うん凄い気に入った! ありがとう篤さん! 大好きっ!!」
※
リップが塗りたての唇はとても艶やかで、そして美味しそうだった。だからつい――…。
一瞬、郁の目が驚きで見開かれたがそれをスルーしたまま唇を味わう。
触れるたびに甘いと感じる郁の唇は、いつも以上に甘くて心地よかった。
※
逃げ腰になりかけた郁の腰を引き寄せて、より深く唇を味わう。
もっと。もっと――…お前を味あわせろ、と。
※
ふるふると郁が振るえはじめ、郁の手のひらから力が抜けてゆく。
殺しきれなかった甘やかな声に本能が呼び覚まされる。
※
「郁、愛してる――…」
※
囁いて、そのまま真っ白いシーツの海へと郁を沈める。
首筋に回された腕に力がこもり、篤さんの馬鹿――…と囁き返された。
〜 Fin 〜