夏の匂い。


 リハビリに行く堂上を笑顔で見送ったあと、郁はベットの上に突っ伏した。
 恋愛経験の、まして両思いになったことなどない郁には正直堂上の甘さに耐えられない。
 開いている窓から入る風でカーテンがゆれるのを眺めながら、郁はぎゅっと白いシーツを握り締めた。

「なんで、なんであんなにっ!」

 初心者マークが付くほど郁は恋愛事情に不慣れだ。
 それを差し引いても彼氏としての堂上は郁に甘い。
 言葉も、態度もなにもかも――…だ。

 正確に言えば郁自身に恋愛に関しての免疫がないため、どうすればいいか分からない。
 名前を呼ばれるだけでどきどきして、頭を撫でられるたびに胸がきゅんってして。
 嬉しいのに、嬉しいのにそれ以上にまだ恥ずかしいと思ってしまう。
 けれど体が萎縮してしまうのだ。自分自身ではどうしようもないくらいに。

「ううっ〜」

 気にするな。織り込み済みだ――…という甘い囁きを郁は思い出し、更に強くシーツを握る。
 郁の緊張をほぐすように優しく頭を撫でて名を呼んで。
 ときおり堂上が郁を抱きしめて、満足そうに微笑む。
 そして堂上の目は雄弁に語るのだ。
 郁のことを愛おしい――…とまっすぐに見上げながら。

 反射的に俯いてしまった郁の両頬を、堂上は包み込みながら口付ける。
 二度、三度と少しずつ角度を変えながら何度も、何度も。
 思い出すだけで頭から湯気が出る。

「あうぅ〜。あたしの馬鹿ぁ〜」

 そのあとはもうなし崩しだ。
 うっかりキスが気持ち良くなりすぎて「そんな顔して煽るな」と堂上に言わせてしまった。
 言った本人も恥ずかしかったのか顔を赤らめていたけれど。

 ――いつか、教官に貰った嬉しい気持ちを返せればいいなぁ。
 ――まだいっぱいいっぱいで直ぐには無理だけど…。

 郁はふにゃりと笑ったあと、暇つぶしにと持ってきた本を読み始めることにした。
 堂上が戻ってくるころには少しは顔の赤みが引くのを祈りながら――…。


     〜 Fin 〜